イタリア人のダンサーで振付家のクラウディアは、美術学校の先生をしている。今回彼女の生徒たちも、アキラのワークショップに参加した。ブラジル人、ポルトガル人、フランス人など国籍もさまざまだ。毎日、クラウディアはアキラのワークショップを見にきて、熱心にノートをとったり、輪になってみんなで話し合う時には、一緒に仲間に入って静かに生徒たちの意見に耳を傾け、稽古の休憩のときは、アキラの課題を上手く動けない生徒に、そっと動き方を教えたりしていた。
お国のことを聞くと「23歳の時に、私はイタリアを捨ててフランスに来ました。随分長いこと国には帰ったことがありませんでしたが、最近は家族に逢いに、時々帰ります」と言い「イタリアにいると、早く結婚して、家庭を持って・・・と言われて、自分らしく生きられなかったので」と付け足した。「イタリアのどちらですか?」と聞くと「アドリア海に面した北イタリア」とだけ言った。須賀敦子さんの「トリエステ」或はリルケの「ドゥイノ」あたりだろうか。国を捨ててパリに向かう気持ちも分からなくもない。今では、2、3の親しいイタリアの友人とイタリア語で話す以外は、母国語はほとんど使わないそうだ。
CNDCの廊下で、クラウディアにばったり出会い、アキラがインチキイタリア語で「トスカ」の名曲「星は光りぬ」を朗々と(?)歌うと、彼女は直ぐに続けて、美しいイタリア語で情熱的に歌い上げた。
漆黒の髪をひっめにして、ミリタリー風の黒皮のジャケットをぴったりと着込み、細身のパンツルックのクラウディアは、とてもかっこいい。でも、生徒達に囲まれて話しているクラウディアは、紛れもない世話好きのイタリア人。彼女の黒い瞳の奥にはイタリア人特有の明るい情熱が秘められている。