ショパンを生んだ国・ポーランドのことを知りたいと思い、カオス状態の私の部屋の本棚から、ノーベル文学賞を受賞したポーランドの詩人ヴィスワヴァ・シンボルスカの詩集『終わりと始まり』を取りだし開いてみると、朝日の夕刊の切り抜きが挟んであった。紙面の上に(2012/2/7)と私が書いた鉛筆のメモがあり、記事は2月1日に88歳で亡くなった詩人シンボルスカの、詩集の訳者でロシア東欧文学者の沼野充義の追悼文だった。
「ポーランド詩人・シンボルスカを悼む」寄稿・沼野充義
潔癖なまでに人前に出ず、雑文の注文にも一切応じないシンボルスカだが、昨年四月、私の求めに応じて、例外的に日本の被災者へのメッセージを送ってくれたことがある。それは『日本列島で自然の持つ力の攻撃に常にさらされている皆様がどのような気持ちでいるのか、容易に思い描くことはできません(中略)。皆様の勇気と忍耐力に対して、共感と驚嘆の言葉をお送りします』と言う短いながらも誠実なものだった。この言葉を書いたとき、詩人はすでに病に深く侵されていたのだろうか。しかし、病も死も、すでに創り出された作品の輝きを消すことはできない。
どんな生であっても/不死の瞬間が/ほんのちょっとだけある。/死はいつだって/その一瞬だけ遅れてやってくる。(「死について誇張せずに」)