夏の記憶

『畑の中の野うさぎの滑走 一匹のトカゲが焼けた石の上を過った』公演が終わって三日経った。
九月五日東京芸術劇場ウエストホールに小屋入りしてから八日の楽日まで、自然の光がギラギラ煌めく極暑の外界と裏腹に、真冬並の寒い劇場内の客席の端から舞台を眺めていた。

照明家の作り出す光………音響家が出す人工的な音の響き………若い三人の女性ダンサーと叡………夏の間、一緒にご飯を食べたり、洗濯したり、お風呂に入ったり、合宿したり………家族のようだったみんなが………純白の舞台空間で………自分のカラダを背負って踊っている………一人ひとりが輝く惑星のように………惹かれるようにスルリとわたしも非日常空間に入り込み……神さまから与えられた裸体で………舞台監督のマルキに支えられ………黒い靴をはいて………純白の舞台をよこぎった。

また、朝歩きの日々がはじまる。
今日も1時間あるく。日が照ると、異常に暑く、曇ると、風に秋の気配を感じる。三日前の舞台が、遥か遠くの風景のように夏の記憶のなかにきえていく。