久しぶりに朝の光。いつものように、空に向かって、おはようぉ〜と呼びかけたが、空も雲もよそよそしい。目を閉じて、たっぷり空気を吸い、太陽の温かいぬくもりを体の隅々まで感じよう………少しづつ、私も世界も動き出し、鳥の囀りが聞こえる。
エッセイスト大平一枝さんが、チカシの花の写真に寄せた文章をネットで読む。写真も美しいが、文章がとても素敵だ。
だれかには見えていて、自分には見えないもの。
あなたには見えなくて、私には見えるもの。
同じ風景なのに、私達の目は不思議だ。
見ようと思うと見えて、みようと思わないと永遠に見えない。
夕暮れ時、二日ぶりに、アキラと散歩に出た。雨でたっぷり水を含んだ道端の名も無い小さな花々が、うれしそうに風に揺れている。
森の大きな樹の後ろには、
過ぎた年月が隠れている。
日の光と雨の滴でできた
一日が永遠のように隠れている。
森を抜けてきた風が、
大きな樹の老いた幹のまわりを
一廻りして、また駆け出していった。
どんな惨劇だろうと、
森のなかでは、すべては
さりげない出来事なのだ。
…………… 長田弘 「森のなかの出来事」より