極暑の日の読書

極暑の日の読書…………暑さを超えよう!

「プラトンに於いては、感性界は要するに現象の世界であり、イデア的本体の世界に比すれば虚妄仮幻の世界であって、真に高貴な魂の到底永く自足安住すべき場所ではないが、さればとて、ただ一途に忌み嫌うべき世界でもなかった。イデア認識に際して、感性界には感性界の意義があり、人はこれをただいたずらに排斥し蹂躙してしまうことによってではなく、逆にこれを機縁とし、足場とすることによって、より高い世界に超出するのである。全ての人間にとって最も端的で最も本源的な直接所与性の世界をなす感性界の意義を認め、これを積極的に活用する点に於いて、プラトンの愛の道は、後世西洋神秘主義に根本的色彩を与えるだろう「否定道」(via negativa)にたいし、断固として積極的な「肯定道」を確立したものと考えることができる」

井筒俊彦著『神秘哲学』第二部「神秘主義のギリシア哲学的展開」第二章「プラトンの神秘哲学」から (人文書院刊)