エマニュエルとの恊働作業の始まり

5月2日の夕方、ANAでドゴール空港に降り、列車に乗り次いでほぼ一時間半アンジェに着いた時、駅にCNDC(国立コンテンポラリー振付センター)のアルノーが、雨の中を車で迎えにきてくれていた。2年振りのアンジェだ。宿舎は前と同じ、窓からゴチック教会の尖塔が見えるアパルトマンの一室。
翌日からCNDCで、叡とエマニュエルの稽古が始まる。思わず叡が「日本に持って行きたくなるような空間だ!」と口走ったほど、素晴らしい大リハーサル室には、叡とエマニュエルの他、音響担当のマチュー、照明のオーギュスティン、映像のカンタンとジュディットと通訳のまり子さんと私の8人。
エマニュエルは、CNDCの芸術監督、ダンサー、コレオグラファー、幼いふたりの娘たちの母親で、ポルトガル人のダンサーの奥さんでもあり、幾つもの顔をもつ、きわめて多忙で、有能な女性ではあるが、実際に会うと、アーティストというより、穏やかな親しみのある主婦というほうがしっくりする。そんな彼女が、一年ほど前から日本に来る度に、僅かな時間を割いて天使館を訪れて、叡との稽古を重ねてきた。
そのきっかけは、2年前の春のCNDCの招聘公演『花粉革命』を観て、叡の動きがどこから出てくるのか強い関心を持った彼女の、持ち前の知りたがりやの性格と物事に一途に向う彼女の意志力が強く働いた結果だ。そのようにしてエマニュエルの要望から、専ら彼女の提唱する『プレイ・バック』という稽古方法を用いて、ふたりの稽古が始まった。
今回私たちがアンジェに来たのは、今週末アネシーのダンスフェスティバルでふたりが踊ることになったからだ。しかし、エマニュエルがCNDCの大リハーサル室で叡と行なった稽古は、フェスティバルのための稽古ではなく、天使館の稽古と全く同じで、『プレイ・バック』、[プレイ・バック』の『プレイ・バック』・・・・。そして、動く時間と同じ時間をかけて、音響、照明、カメラのみんなと話し合い。それぞれが、動き、光、音を分析して言葉にする。それぞれがA4のノートに細かく書き付けて行く。ダンサー、照明、音響、稽古場にいる人が、自由に自分の時間を相手の時間に重ねて行く。初め、エマニュエルの知りたがりやの芽が頭をもたげてから、呼吸するように過去、未来、現在の時間の層が重なり合って、密度の濃い深い時間の流れになって行く。そんな稽古の流れから、アネシーでどんなものが生まれてくるのか、とても楽しみだ。叡にとっても、きっと未知の出会いを楽しみにしているだろう。エマニュエルとの恊働作業はこれからも続いていくだろう。