リハビリ室で

膝に人口関節を埋め込んで、10日経った。歩くと左脚に重たいゴムの輪っかをはめているようで思うようにいかない。両親から与えられた生来の体に、全く異なる素材の物質を入れたのだから、そう簡単には馴染まないだろう。
リハビリ室で、リウマチを患っている10歳年上の女の方と出会った。彼女は、首に頭部を支えるカラーをして車椅子に座り、 変形した指や腕のリハビリに、黙々と、無表情で励んでおられた。 ひとしきり作業が終わると、リハビリの先生が、彼女の前にA4の紙を置いて鉛筆を手渡した。
「お耳は遠いのですが、病室からお迎えがあるまで、いつもこうして百人一首のうたを書かれるのですよ。もう何枚目かしら」と、リハビリの先生が言った。紙の右端から細かい字で、びっしりと書かれているのが見えた。
翌日、私が歩行器で、車椅子に座ったその人の前を通りかかると、 大きな声で呼びかけられた。
「歩けていいね。私は両膝が人口関節、ももの脇にも人工の骨、嫌だねぇ〜」と言って、カラーを付けた顔をまっすぐに向けて、横目で私を見て、ニッコリ笑った。
おおきな瞳の中から、無邪気なこどものもつ、茶目っ気たっぷりの明るい光が飛び出してきた。
素敵な人だ!