ブラヴォー!大野先生

横浜のBank ART Studio NYKで行われた「ブラヴォー!大野一雄の会」で、その実行委員会代表の写真家細江英公先生が、お話の後、ワイングラスを高々と捧げて、「ブラヴォー!」と一声を発すると、会場一杯に埋め尽くしていた参加者たちも一斉に「ブラヴォー、ブラヴォー」声を上げた。その瞬間、不思議な力を頂いたように感じたのは、私だけではないだろう。
大野先生の「ブラヴォー!」には思い出がある。1980年ナンシーの国際演劇祭で、先生が「ラ・アルヘンティーナ頌」を踊られた翌日のことだ。
丁度5月の聖霊降臨祭のころで、美しいナンシーの街角で「ブラヴォー」というどよめきの歓声が上がったのだ。人ごみの後ろから背伸びして見ると、角のカフェの中で、大野先生がコーヒーを飲んでいらした。
きっと昨夜先生の踊りを観た人々だろう。口々に先生の踊りを賞賛する言葉を囁き、笑みを浮かべ、次々と人々が集まってきた。やがて、大きな拍手とともに「ブラヴォー」の声が街中にこだまして、何時までも止まなかった。
そんな熱気の最中、カフェの中で、先生は私に向かって小さい声で話された。
「ワタシはね、キリストの足洗いのダンスをしたいのですよ」
先生がきっと、弟子の足を洗うイエスのことを話されたのだろう。外では、柔らかい新芽をいっぱいつけた街路樹が、春の陽のもとで眩しく輝き、「ブラヴォー」の歓声は、何処までも何処までも、さざ波のように広がっていく、何時までも、何時までも・・・。
昨夜の会では、ナンシーでのことを、昨日のように懐かしく思い出しながら、あらためて大野先生に思いを巡らし、感謝の気持に満たされた。美しい夜だった。