夏の記憶


目覚めると
おおきな夏の青空が
リウマチで歪んだ
わたしの カラダの内側に
するりと入り
70年前の夏の朝が
今日の朝と重なる
幼い目に映った
あの青空
顔より大きく切った  くし形のスイカ
甘い香りが あたりに漂い
小さな口もとから
赤い果汁が
溢れ出る
洗濯したての 白い
木綿のワンピースの胸元が
真っ赤に染まる
容赦なく
照りつける
真夏の太陽の光は
夢中でスイカに食らいつく
穢れを知らない子どもらの皮膚を
じりじりと  焼く
ひまわりの黄色い花弁に目が眩み
ミツバチが  ぶんぶん唸る
スイカの種飛ばし
「一番遠くに飛ばしたのは  だあ〜れ?」
明るい声が
遥か彼方に 木霊する
無限の時間の凝固
畑の中の
野うさぎの滑走
一匹のトカゲが
焼けた石の上を
走った
未来から 記憶の風がふいてくる
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