散歩にでる時

いつも散歩に出る時、エィっと自分で自分に気合を入れなくてはならない。ヨワムシだなぁ〜ナマケモノだなぁ〜ナサケナイなぁ〜ヒサコサン。でも、首にカラーを巻いて、靴を履いて、マスクをして、せつ子さんから頂いた超カッコいい帽子を頭に載せて、カートを出して……やれやれ、玄関を出ると、急に嬉しくなるのは何故だろう。
首の骨が頭を支えられないので、転倒しないように、前方を見ずにもっぱら自分の靴の動きを見ながら歩く。でも、春先の空気の匂いや、袖口からスゥーと入ってくる風が胸の辺りを通り過ぎるのを心地よく感じながら、今はまっているユルスナールを頭のどこかで思いながら歩いていると、自分の壊れかかった体のことが気にならなくなる。
史蹟公園の一本松の曲がり角まで来た時、私が曲がる方向に大きな車が止まっているのに気がついた。私が通り過ぎるのを待っているのだ、急がなくては!と思った途端、公園で作業をしていたおじさんが「おばあちゃん、大丈夫だよ、私がいるから」と言って、私の背に手を当てて、車が通り過ぎるまで守ってくれた。「ハイハイ、ご親切にどうも ありがとうございました」と、それまでユルスナールになっていた私から、急におばあちゃんになった私の体に、ゆっくりと温かさが行き渡る。また、しばらく行くと、前方からオートバイの音がして止まった。次男のレイジだ。「どこいくの、散歩?気をつけるんだよ!」まるで母親が子どもにでも云うような口振りでいうと、さぁと走り去っていった。……ハイハイ、充分気をつけます、ありがとう……。それからも、自分のペースでゆっくりカートを押しながら、自分の十字架は自分で背負わねば………などとぶつぶつ言いながら、背中を丸めて前屈みの姿勢で、ひたすら地面を見ながらあるいていると…極楽とんぼのヒサコサン。アナタはそれで充分幸せよ…と、どこかでもう一人のヒサコサンの声がする。ココロはカラダをいたわりカラダはココロを支え……沈丁花が香ってきた。明日も散歩に出よう。