私は、歌舞伎町が好きだ!

またもや、梅雨前線の猛威で各地で多くの被害が出ている。九州に住むクララちゃん、カワバタさん、エハラさん、ムラカミさん、ミレイさん………みんなご無事かな? ご無事でありますように、とお祈りするしかないのだが……。
毎日毎日、夜の町歌舞伎町がニュースにのぼる。歌舞伎町は私の育った町。私は、小学1年生からアキラと結婚するまで新宿区役所通りに住んでいた。今から70年前のことだ。家族と一緒に住み始めた頃、今の区役所はなく、コマ劇場もなく、鬼王神社から大久保小学校につづく一本道は、ジャリ道で、途中に伊勢丹の倉庫があっり、あちこちに雑草だらけの空き地があったように記憶している。夏になると、風鈴やさん、キャンディーやさん、金魚やさんが、天秤棒を担いで大声で「キンギョォー、キンギョ。キンギョォー、キンギョ」などと叫びながら通っていく。
やがて、コマ劇場ができると、その周辺の映画館が、我が大久保小の夏休みの映画鑑賞会会場になった。前夜の繁華街の熱気がようやく鎮まり、まだ町全体が深い眠りに沈んでいる真夏の早朝、私はワクワクして、爽やかな朝の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、映画館に急いだ。
「ダンボ」「白雪姫と七人の小人」「シンデレラ姫」「砂漠は生きている」「野ばら/ウィーン少年合唱団」……。夢のような不思議な世界!楽しかったな。今でも思い出すと、そのワクワク感が体の中に蘇る。歌舞伎町には、八百屋のヤエコちゃん、料亭のケイコチャン、お勤めのナミちゃん、学者のフクハラくん、中国人のラさん、美容師のヤマノくん………ありとあらゆる職業の、お金持ちの家の子も、貧しい家の子も、みんなごちゃ混ぜになって住んでいて、一緒に遊んだ。親たちは、町の戦後復興に夢中で、子どもたちのことに構っていられない。青線地帯、売春婦、パンパン・ガールとGI、シスターボーイ、ヤクザの親分とおかみさん、警察、花園神社のお酉さま、バナナのたたき売り………哀しくも、懐かしい思い出。
朝まだき、区役所通りに斜めに差す淡い透明な光を背にうけて、私は、仙川の女学校に六年間通った。
人間の、あまりにも人間臭い町/私を育ててくれた町。私は、歌舞伎町が好きだ❣️

文学座のアトリエ公演に通ったりして、ちょっと気取った女学生。
文学座のアトリエ公演に通ったりして、ちょっと気取った女学生。