純粋知覚

アンジェの街を歩いていると、前世からの記憶が甦ってくるような気分に襲われる。純粋知覚とは、一切の思い込み、記憶を排除して、あるがままの対象を知覚することだが、この純粋知覚で、この街を歩いていると、いまこうしてここを歩いているのは、ダンス公演のために来たのでもなく、フランスから呼ばれたから、ここにいるのでもなく、一種の「運命的必然性」によって、ここにいるとしかいいようがない。純粋知覚のなかにいると、すべての出来事が必然として、生じているのであり、そこには自己の意志なぞ、微塵も入り得ない、「生のままの生」の流れが現れてくる。
アンジェは典型的な中世の城を中心にして造られた町であり、1000年の時間も流れが生き生きしている。城は堅固な城壁に囲まれている。そして城の中には小さな街がある。ここにいると、今の生と前の生がそのまま繋がるのだ。そしてこの純粋知覚のまま、気合いを入れて舞台に飛び込むのだ。