昨日はお彼岸のお墓参りのため、姉たち二人と四谷二丁目の愛染院で待ち合わせをする。お昼前の空いた快速電車に乗って座り、先日長男がくれた亀山郁夫の新訳「カラマーゾフの兄弟5」を開いたが、いつものことで半ページも読まない内に、心地よい睡魔が訪れた。停車毎のざわめきがわずかに覚醒を促すが、電車が動き始めると再び眠りの世界に沈んでしまう。新宿到着を伝える車内アナウンスが遥か彼方に聴こえてきて、ようやく目が覚めてきた。気が付くと隣りは若い女性に変わっていて、その彼女が何やら小さな手鏡を取り出して化粧を始めた。睫を丁寧にカールして、マスカラを注意深く塗り、次はシャドーだ。矯めつ眇めつ小さな鏡とにらめっこしながら、次第に美しくなっていく自分に惚れ惚れしているのだろう。その一心不乱の動作は、誰も口を挟めないほどの気合いがこもっている。彼女の短時間に変身する早業を思うと、この車内化粧室は、既に彼女の日常になっているのだろう。
25年以上前ドイツに住んでいた頃、市電に乗っていて気がついたのだが、車内で本はおろか新聞でさえ何かを読んでいる人はほとんど見かけなかった。みんな腰を垂直に姿勢を正して座り、真っ正面を向いて決して居眠りをしない。勿論老若男女問わずみんなだ。その時”わぁ~スゴイ、ゲルマン民族って!”と感心したのを思いだした。でも、今でもそうか一向知らない。
あれやこれや思いつつため息をついていると、電車は四ッ谷に着いた。彼女はその後櫛で髪型も整えるのだろうか?そんなに時間がないのだろうか?