大柄のモハマッドは、『一千一夜物語』に出てくるペルシャの民族衣装にターバンを巻いたらよく似合いそうなイランの青年だ。浅黒い顔に漆黒の大きな瞳が、 33歳にしては幼く思われるほど無邪気な笑みをたたえている。他のワークショップ生によると、何をするにも彼はいつも遅れるそうだ。飛行機に乗るのも遅れ るし、集合時間にも間に合わない。先日の復活祭前夜のパーティーにも、かなり遅れてやってきた。でも、みんな「彼は自分の時間を持っている」と言って気に していない。
イランではコンテんポラリーダンスは禁止されている。民族舞踊以外のダンスは男も女もしてはいけない。イスラムの厳しい掟が今も生きているという。モハ マッドは叡のワークショップを受けているが、将来は映像関係に進みたいらしい。叡によると、彼は複数形の身体が抜群だそうだ。独りで動いているのに、まる で10人の子どもたちと一緒に動いているかのように見えるという。多くのヨーロッパ系のダンサーが単数系の動きをする中で、とりわけモハマッドの動きは特 徴的に見える、と話してくれた。
いずれにしても、コンテンポラリーダンスが禁止されている国からこのCNDCやってきて、叡のダンスのワークショップをうけることは、彼にとって革命的なことであるだけではなく、彼の存在そのものがこの時代においてとても大きな意味を持っていると、私は思っている。