冬の蝿

昨日はキラキラするような春めいた冬日。今日は冷たい曇天の冬。
数日前、キッチンの入り口から小さな蝿がひらひらと迷い込んできた。昼間はどこにいるのか、夕方寒くなると、私のおでこ付近を通り過ぎる。最初、疲れ目に起こる飛蚊か、と思った。手で払っても、また、ふらふらとおでこ付近を通り過ぎる。五月蝿いなぁ、と思いつつ放っておくといつの間にかどこかに飛んでいってしまう。ところが就寝時にまた現れ、私から離れようとしない。やれやれ、困ったものだ。昨年一年は、withコロナ&リウマチのダブルパンチの日々だったが、今年からは、Fliesまで加わるか…?
翌朝、蠅はすでにキッチンの中を飛んでいた。庭の方にとガラス戸を開けも、素早く高みに逃げて見えなくなる。アキラと朝食を食べ始めると、降りて来て、食卓の隅の陽だまりに止まった。「アキラ、急いで!」と新聞紙を丸めて手渡すと、加齢性黄斑症で視野が歪むアキラ、小さな蝿めがけてパッシ。空振り。再び、食卓に止まったところを、今度は命中。思わず、やったね!と安堵したものの、蝿だって、寒い夜は人肌の温もりが欲しいだろう、冷たい朝は太陽の暖かい恵みに与りたいだろう……などと身勝手なことを考えながら、withコロナ&リウマチの日が過ぎていく。
  冬の蝿
 凍る夜
 一匹の蝿われにきて
 掌のぬくもり盗む哀れさ
      詩集「赤鴉」 吉岡実