サンナゼールには正味2日しかいなかったが、奇妙な印象の町だった。
サンナゼールは、第2次世界大戦でドイツ軍に占領され、終戦間際アメリカ軍によって解放されたが、町は完全に壊滅したと言う。今でも埠頭には、占領時にドイツ軍が造った分厚いコンクリートの潜水艦造営場の壁が残されている。いや、残ってしまっていると言ったほうがあたっているかもしれない。なぜなら、今でもこの怪物の様な物体を壊すには、莫大な費用を要するらしい。なにしろ、爆撃でむき出しになったコンクリートの中を見ると、埋め込まれている鉄筋の数が半端ではない。というわけで、サンナゼール市では、これを負の遺産として残すことにした。
そして、道路を挟んで対面するように、素晴らしい現代的な劇場がある。アートの町の誕生だ。
戦争をするのも人間であり、芸術をするのも人間だ。
中世から続いている古城の町アンジェに戻ってきて、サンナゼール市で感じた痛みと希望が奇妙に入り交じった印象がますます鮮明になっていく。
そんなサンナゼールで「Spiel」公演が出来てよかった。たった1回の舞台だったが、とりわけその日のエマニュエルは美しかった。