キッチンからベランダに降りて洗濯干をしたいけど、これだけは厳重に禁止されている。少しの段差でもバランスを崩して転倒したらベランダのコンクリに頭を打ちかねない。ガラス戸を開けて内から外を見ると、すぐそこの物干し竿は光をたっぷり浴びている。洗濯機がやってくれた洗濯物を、早くあの光のなかに広げたい………と思うのはいつも太陽の運行と競争してきた主婦の習性だが………今は、さあ早く車椅子につかまり安全を確保し私自身が太陽の光のなかに入っていこう。
無心に歩くことに集中する。気がつくと「なむあみだぶつ なむあみだぶつ」の七つの音を頭のなかで唱えている、意味もわからないのに何故?………自然のなかに体が溶けていく不思議な感覚……心地よい「なむあみだぶつ」の7つの音。温かく、懐かしい。
桜の花もすっかり姿を消し、若草色に面変わりした樹々が静かに並び、草地にタンポポの黄色が点々と見える。初夏にむかって植物たちは自分の出番を待っている。
