来年5月の誕生日で99歳になるアキラのお母さんは、今老人介護施設で暮らしている。そのお母さんの、かつての部屋の押し入れの片隅から、四半世紀前に私がドイツからお母さん宛に書き送った手紙の数々がでてきた。丁度25年前の今頃書いた手紙。お母さん63歳。久子36歳。
1980年10月28日
買い物から帰ると、お母さんから手紙と小包が(毛布のカバーとスリッパ)が届いていました。小包を見ただけで元気百杯!!ありがとう。まずお母さんの質問に答え、私の希望を書きます。1)粉ふるいはこちらにもありますので、不要です。2)歯の痛み止めは、中山先生のがいいのですが、無理でしたら、セデスとかでも結構。3)クリスマスツリーの飾り。もし余裕があれば、ツリーも入れて下さい。こちらで、ツリーを買うと20マルク〜40マルク位で、まあ1年に一回のことだからと思いますが、生木を買うと、入れ物から土から、何から何まで用意しなければならず、この際、日本にあるイミテーションのツリーでがまん、がまん。3)食料品は、ラーメンがもうすぐなくなりますので、カレーのもとと一緒にお願いできますか?4)おろし金。ドイツにもありますが、日本の製品の方が使いやすいので。以上船便でお願いできますか?
さて、クリスマスにおばあちゃんが来るんだと、子どもたちは、今から首を長くして待っています。そこで、子どもたちへのクリスマスプレゼント。出来れば、美しく、面白い本を1冊づつ(もし重たければ、食料品と一緒に船便にして下さい)。ヴァルドルフ学校では、プラスティック製のもの、例えば、レゴのような物は、賛成しません。それがいいとか悪いとかではなくて、私は、折角こちらに来て、日本のガラクタがない状態なので、少しづつ、おもちゃを選んで子どもたちに与えようかと思います。先日、木製の電車とレールのセットを買ったら、3人とも大喜び。毎月少しづつ、電車もレールも増やしていくのも楽しみです。また、木製のチェス(高価ですが、長いこと使えます)、トランプ(とても美しい色の絵のもの)小さい機織機(ミツの幼稚園で使っていて、私も楽しめそう。ミツが特に好きそうで、クリスマスプレゼントの候補の一つ)木製のままごとセット、大工道具セットなどなど。見ているだけでも楽しいので、お母さんがいらしたら、是非一緒におもちゃ屋さんに行きましょうね。
アキラから聞いたと思いますが、ミツのお友だちのロビン君を毎週水曜日に預かる仕事を始めました。ロビンのお母さんのザビーネは、独りで子育てをしていて、強烈な人ですが、とても優しくて、面白い人。1日につき、25マルク。ランチから夕方6時まで。つきに100マルクになるかならないかですが、子どもたちにおもちゃを買ってやれるかもしれないので、頑張ります。それにザビーネが、大好きになったのです。
ところで、今日は、ドイツ滞在の先輩、Y夫人の家を訪問しました。もう1人在独の日本人の奥さんも加わって、あれこれとおしゃべりしましたが、ドイツに来てまだ間もない新参者の私は、会話について行かれず、話しを聞きながら、外国で日本人家族と付き合うのは、大変だと痛感しました。ともすると、とても狭い世界の中での人間関係になり、他の家庭の悪口の言い合いになりそうで、嫌な感じがしました。幸いにも、私の周りは、日本の若い人たちばかり。子持ち家庭は、我が家だけです。外国で暮らすということは、よほど心を開いて、大らかにならないと、まったく自分にプラスにならず、中途半端な日本人になる恐れがあるのでは、などと考えながら帰りました。今は、むしろ日本人である私が、どれだけ人間として外国人(ドイツ人に限らず)共通の意識を持ち得るかが、緊急課題です。ではまた。久子
読み返してみると、随分調子のいいことを言っているのに、我ながらあきれてしまった。国分寺で、家族6人で暮らしていて、突然、お母さん独り残して、5人で渡独。あれこれと、注文の多い料理店さながら、姑におねだりする嫁。ププラスティックは止めようと言いながら、大切なクリスマスに、イミテーションのクリスマスツリーでよしとする感覚。何と浅はかなことよ、とお恥ずかしいが、事実だからしかたがない。それにしても、ドイツ滞在の5年間、よく手紙を書き続けたと感心する。当時はパソコン、スカイプなど無かったし、国際電話はとても高くて、緊急時のみ使用。唯一の通信手段は手紙を書くことだった。今にして思えば、懐かしい時間の流れの中の暮らしだった。