島崎藤村『夜明け前』

夏至……昼下がり、明るい光が中庭に溢れている。暑さに草臥れた青紫の紫陽花が、微かに風に揺れている。ここは静かだ………殺し合いがあちこちで起こっているというのに!

藤村の『夜明け前』うんざりするほどの長編にもかかわらず、なぜか引き込まれて目が離せない。あまりにも長いので、途中でほったらかして別の本に目を移し、忘れた頃に再び木曽路、馬籠の庄屋青山半蔵さんのところに戻っていく。すると、私はすんなり山の中に楚々として暮らす木曽路の住人になっている。不思議な小説だ。

幕末の混乱から明治維新の文明開化までを藤村は『夜明け前』と言ったが、20世紀から21世紀の今日まで、果たして世は開けたのだろうか?

「木曽路はすべて山の中にある」という書き出しとはほど遠い、地球規模のグローバルな世界の今日。ますます夜明けから遠のいていく………。