七月。夏が一気にやってきたというのに、戦争はまだ続いている。あまりの暑さに、草も花も人間もぐったり。新聞の一面記事を読んでも「困ったもんだ」で済ませてしまう。みんな一生懸命に生きているのに…………誰も殺し合いなんか望んでないのに………
「悲しみ」 ヘルマン・ヘッセ/高橋健二訳
きのうはまだ命の火に燃えていたものが、
今日は死の手にゆだねられている。
花が一枚一枚、
悲しみの木から落ちる。
花の落ちつづけるのが見える。
雪が私の小みちに落ちるように。
足おとはもはやひびかない。
長い沈黙が近づく。
空に星がなく、
心にはもう愛がない。
灰いろの遠いかなたが沈黙し、
世界は老い、空虚になる。
こういう悪い時勢に
だれが自分の心を守ることができよう?
花が一枚一枚
悲しみの木から落ちる。
私の持っているヘッセ詩集は、「悲しみ」の次に「平和に向かって」一九四五年復活祭、バーゼル放送局の休戦祝典のためにー という詩で終わっている。1950年10月新潮社から出版されたこのヘッセ詩集を16歳のときに買ってから、いつも机の片隅にある、いまでも。