おしいれのぼうけん

「おしいれのぼうけん」の著者の訃報をネットで知った。何度子どもらにせがまれて、この田畑精一のお話しを読んで聞かせたことか。懐かしい愛読書のひとつ。かつての我が家の六畳間の押入れも三人の男の子たちの格好の遊び場だった。夜、寝る時間だよぉ〜と言って、部屋いっぱいに三つの布団を敷き詰めると、そこは途端に大海原になり、砂漠になり、コンバットごっこの戦場になる。子どもらは、何度も押し入れからジャンプして大海原に飛び込む。風呂敷のマントを首に巻き、カッコいい仮面ライダーになり切って「トォー!」と掛け声をかけて、天井めがけて飛び上がる。ある時は、お兄ちゃんが弟を中に閉じ込めて、外から押し入れの戸を叩いて脅かす。やがて、ケンカがはじまり、下の子の泣き声が、上の子たちのクスクス笑いがもれ聞こえる。私は、さあみんな、お布団に入って………と号令をかけ、明かりをパチンと消す。押し入れの熱も鎮まり、眠りについた子どもたちの夢が、宇宙の果てまで広がっていく。
50年前の子どもたちの風景。コロナ時代の子供たちはどんな風景を生きるのだろうか。

夕陽
夕陽