「葬式に行くカタツムリの唄」   ジャック・プレベール/小笠原豊樹訳

死んだ葉っぱの葬式に

二匹のカタツムリが出かける

黒い殻をかぶり

角には喪章を巻いて

くらがりのなかへ出かける

とてもきれいな秋の夕方

けれども残念 着いたときは

もう春だ

死んでいた葉っぱは

みんなよみがえる

二匹のカタツムリは

ひどくがっかり

でもそのときおひさまが

カタツムリたちに話しかける

どうぞ どうぞ

おすわりなさい

よろしかったら

ビールをお飲みなさい

お気が向いたら

パリ行きの観光バスにお乗りなさい

出発は今夜です

ほうぼう見物できますよ

でもわるいことは言わないから

喪服だけはお脱ぎなさい

喪服は白目を黒ずませるし

故人の思い出を

汚します

それは悲しいこと 美しくないこと

色ものに着替えなさい

いのちの色に

するとあらゆるけだものたちが

樹木たちが 植物たちが

いっせいに歌い出す

声を限りに歌い出す

ほんものの生きている唄を

夏の唄を

そしてみんなはお酒を飲み

そしてみんなは乾杯し

とてもきれいな夕方になる

きれいな夏の夕方

やがて二匹のカタツムリは

自分の家に帰って行く

たいそう感激し

たいそう幸福なきもちで帰る

お酒をたくさん飲んだから

足はちょっぴりふらつくが

空の高い所では

お月さまが見守っている。     『ことば』より

 

わたしのからだもだんだんカタツムリになってきて………時間が先に飛んでいく。