リタ

ポルトガル人のリタが、アキラのワークショップを受けるのは2回目だ。3年前の1回目のワークショップの時にも、彼女は参加していた。もともと彼女は幼稚園の先生志望だったが、当時CNDCの芸術監督だったエマニュエル・ユインがポルトガルでダンス公演を行なった際に、たまたまエマニュエルのお嬢さんのベビーシッターをやったのがきっかけで、CNDCのエッセイコースに参加するようになった、と話してくれた。参加者のほとんどの国籍は異なり、個性の強い若い男女の集まりの中で、彼女は、いかにも初心で、素直で、目に入るもの全てが新鮮であるかのように大きな瞳を輝かしながら、はにかんでいる少女に見えた。
当時、そんなリタが、急に「去年、私独りで日本を旅しました」と話しかけられてびっくりした。思わず「どこを、どうやって?」と聞くと「四国のほうです。日本の方はとても親切で、暖かく、一軒の農家を訪ねると、必ず泊まって行きなさい、と言われ、次の日はその家の知り合いのうちを紹介してくれました。毎日、感謝の気持ちでいっぱいになりながら、何の心配もなく旅が出来ました。日本は本当にいい国ですね。今度は東京に行きます」それは大変!! ちょっと待って、と私は心の内で叫んでしまった。
それより数年前、「花粉革命」公演でポルトガルのファロに行った時のことを思い出した。初夏の頃だったか、イベリア半島の南端の港町ファロは、小さな箱庭のように可愛らしく、街の至る所で見られる合歓の木は、美しい薄紫色の花がたくさん咲いて、時折の海風に街中に甘い香りを漂わせていた。
日本とは全く異質な幻想的なファロの街。でもなぜか懐かしかった。
さて、今回のリタ、可愛らしいから美しいに変身し、はっきりとした口調で「来年は日本に行きます」と言った。そして「でもポルトガルは今、経済的に危機に瀕しています。スペインも、ギリシャも。ポルトガルは小さい国で・・・・」と悲しそうに付け加えた。私は心の内で「でも大丈夫、リタ、あなたなら。だって、その昔日本人が初めてあったヨーロッパの人は、あなたの祖先だったんですから」と言いながら、いつの間にか、時空を超えた遠い国との繋がりに想いは広がる。