陽が落ちる頃、霙に…………

食べ物(それも歯を失って入れ歯になってからは柔らかい食べ物)が食道を通る時、ヒョイと小さな瘤を越えて胃の方に向かうことが多くなってきた。以前は感じなかったことだ。瘤は少しずつ成長していく。これからどうなるのだろう。食べ物の通り道が塞がれてしまうのだろうか?………頭部は重たい。垂直になると首はどんどん前のめりになる。

水平生活が一番楽だけど、脚の筋力は落ち、寝たきりになり、食欲は失せ………あぁ、私のカラダのこの矛盾律………なんて、心配してもどうにもならない。

そうだ、昨日ヘルパーさんが明日は雪になるかもしれない、と言っていたのを思い出した。
ぬくぬくと怠けていないでお日さまのある今のうちだ。ダウンのオーバーで身をかため、外に出ると…………暖かな柔らかい陽差しに包まれて、私の行く手にうららかな春があった……あぁ、懐かしい曲……頭のなかにモーツァルトのクラリネット協奏曲第二楽章が聴こえてきた。美しい記憶の風がカラダを通り過ぎていく。

陽が落ちる頃、外は霙に………天使館の窓に灯りがつき、アキラの「金鱗の鰓を取り置く術」の講座が始まった。