3月は、いろいろなことが始まる月だ。アキラと結婚したのも3月3日、今から51年まえ。天使館を作り始めたのも春。リウマチと診断されたのも3月。3年後民族大移動みたいに一家五人でドイツに渡ったのもまだ冷たい春のはじめ。初めての地でいち早く目に飛び込んできたレンギョウの輝く黄色が忘れられない。それからドイツ生活6年目の春、国分寺に帰ってきた。久しぶりに畳の上に寝て、お隣さんの梅の香りに誘われて目がさめると、鳥の声が耳の近くで聴こえる。ドイツの春の鳥の囀りは、冷たい空気をつんざくように、天の高みから垂直に響いてきたものだ。
日本の春は香りから、ドイツの春は色からはじまる。0224BD62-EF7D-421B-BE46-5DCE6664C695
アキラ、庭に稽古場を作り始める。先ず整地から。正面の木はメタセコイヤ。物干しには、長男チカシのおしめが早春の風にはためいている。池の周りの芝桜が美しい。天使館のはじまり。以来、毎年春が来ると、何かが新しくはじまる。