生と死へのベクトル

物質体が壊れたら、元には戻らない。新しい物資体を作らなくてはならない。

私が、自分の体を自分で支えられず、水平生活になって2ヶ月経った。砂浜に流れついた痩せた流木のようにベッドに横になり、ついに私の体は修正不可能となり、枯れ木が朽ちるにまかせて土に還るように、静かに死者の国に赴こう、などと思ったけど、そう美しい小説風にはならない。2階から階下に居場所を移して、ベット生活を始めて一週間もすると、なんとかして体を水平から垂直にしたいという気持ちが湧いてきた。主治医の先生は、頚椎が脱臼しかかっているので、もしカクッと頚椎が滑ったら、首から下は麻痺、あるいは、即死。でも、首、肩、背中………身体中の筋肉を鍛えて、座る、立つ、歩く を練習すれば、垂直生活が出来るようになる、と言われた。

そこで、よし、少しでも垂直に、を目指して練習を始めたが、変形した頚椎が重たい頭部を支える時の、耐え難い神経の痛み………やっぱり、朽ちていく体を水平にして、静かに無為の時間に身を委ねようか……と自分で決めた生と死へのベクトルがくるくる変わる。

生きるって大変! それにしても、早く梅雨が明けないかな……太陽の光が恋しい。

「処世のおきて」  ゲーテ/高橋健二訳

気持ちよい生活を作ろうと思ったら、

済んだことをくよくよせぬこと、

めったに腹を立てぬこと、

いつも現在を楽しむこと、

とりわけ、人を憎まぬこと、

未来を神にまかせること。